【生き物は「死」を手に入れた】『ヒトはどうして死ぬのか』を読んで

 田沼靖一氏の『ヒトはどうして死ぬのか』という本を読みました。

 いろいろと興味深い本でした。

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 生物学的な観点から、なぜ人間やその他の生き物たちが死ぬのか、ということについて書かれています。また、癌などの治療や薬剤についての話も書かれています。

 この本の内容は、細胞の”アポトーシス”を軸にして進んでいきます。アポトーシスは「プログラムされた細胞死」とも言われていて、ざっくり言うと、”細胞の自死”です。

 細胞には物理的な事故による”ネクローシス”(壊死)と、プログラムされた細胞死である”アポトーシス”(自死)がある、とのことです。

 ところで、生物というのはそもそもは寿命がなかったのです。一倍体と呼ばれる生物(例えば大腸菌など。遺伝子のセットをひとつしか持たない生物)はひたすらに細胞分裂を繰り返し、遺伝子をコピーして増えていく。事故死しない限り細胞は生き続け、倍、倍、倍、とひたすら増えていく。

 ところがやがて、二倍体細胞生物(遺伝子のセットをふたつ持つ生物)が現れます。このふたつの遺伝子のセットというのは、オス(父親)とメス(母親)からもらったものなのです。ここで初めて、生物は「死を獲得」します。

 なぜ死を獲得したのか。

 生物が生きていく中で、その生物の DNA はどんどん傷を負っていきます。傷のたまった個体が他の個体と交配すれば、その子どもの DNA にも傷が受け継がれてしまいます。これを繰り返すと、もうみんな DNA が傷だらけ、そして種の絶滅へ……、ということになってしまいます。

 それを避けるために、ある程度(例えば人間なら100年前後)生きて DNA が傷ついた個体は、個体ごと消去する(つまり、死ぬ)ようにすればよい、ということです。なので寿命があるのではないか、ということです。

 これが、生物学的に見ての「ヒトはどうして死ぬのか」の答えでもあるわけです。

 また、この本の中ではアポトーシスに注目して、癌やその他のいろいろな病気を治すための研究や薬剤の開発などについても、かなりのページを割いて説明されています。

 2010年の本なので、ここに書かれているより、現在はもっと色々と進歩しているのだろうとは思いますが、日々研究を重ねる研究者や医学従事者には頭が上がりません。

 あらゆる病気は

  • 起こるべきアポトーシスが起きない(死ぬべき細胞が死なない)
  • 起きないはずのアポトーシスが起きてしまう(死なないはずの細胞が死ぬ)

 の、いずれかによるものが多いようです。なので、起こるべきアポトーシスを起こし、起きないはずのアポトーシスを阻止するため、様々な治療法が考案されているのです。

 生物学的な専門用語もたくさん出てきますが、基本的にどの用語についてもわかりやすく説明されているので、読みやすかったです。……それでもわからないことだらけではあるのですが。 

 人は、必ず死ぬことができます。死は敬遠されがちですが、もしも人間が不死の存在であったなら、生きる意味など考えず、命のありがたみというものも感じず、ただただ無為に生きる存在になってしまっていたのかもしれません。

 なにより、(生きることがもしもとてつもなく素晴らしいことだったとしてさえ)どこかで飽きるでしょう。いくら好きな食べ物でも、毎日毎日朝昼晩朝昼晩とそれを食べていたら飽きます。

 生物学的なことはわたしにはよくわからないところもありましたが、生物学的に見た「死の意味」を知ることができたのは、大きな収穫でした。

 最後に、特に心に残った言葉をひとつ引用しておきます。

「死」を与えられたことによって、人間は「生きるとは何か」という問いを立てられる存在たり得ていると言えます。

田沼靖一『ヒトはどうして死ぬのか』

 

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